2012年3月25日日曜日

INITIA Consulting|INITIA Archives|経営学講座|3. 企業システム:第7章「株式市場と企業行動」


 1. 株式所有構造

 日本の株式所有構造は近年大幅に変化しています。日本企業の株式所有構造の歴史的な変化を見ると、戦後から1960年くらいにかけては個人の所有比率が40%前後と高い一方、金融機関や事業法人の保有比率は20%前後でした。しかし外資導入自由化などに対抗するために、オイルショック以降、企業間で株式持ち合いが進み、金融機関と事業法人の株式保有比率が非常に高くなります。1990年頃には投資信託および年金信託を除く金融機関の株式所有比率は40%を越える水準にまで高まります。この株式相互持ち合いによって、市場であまり売買を行わない「安定株主」が株式の半分以上を保有することになりました。しかし90年代後半から信託を除く金融機関の持株比率は急速に低下し2000年には約30%にまで低下、その一方で個人そして 外国人投資家の比率は徐々に高まり、2000年にはそれぞれ26.3%、13.2%となっています。

 このように、日本の株式市場におけるプレーヤーは、近年変化しつつも、金融機関および事業法人が大きなインパクトを持っています。このような金融機関および事業法人は株式を保有していても、実際にはほとんど売買は行わず継続して保有する株主であると言われてきました。いわゆる安定株主です。安定株主は現在の経営陣を支持する友好的「内部者」として株式を保有し、現在の経営陣を支持しない第三者、特に敵対的乗っ取り屋や戦略的な買いを入れようとする投機家などに株式を売却しないことに同意しています。また株式を処分する必要が生じた際には、当該企業に相談するか、あるいは少なくとも売却の意思を伝えます。論者によると、安定株主は株式の譲渡や企業経営に対する影響力の行使に関わる権利を暗黙のう� ��に放棄する契約を交わしていると解釈できる、と論じる人もいます。 �

 また最近、株式市場を見ていると、「金融機関の持ち合い解消売り」などの言葉が紙面で見かけます。たとえば日本においては銀行とその取引先である企業との間で株式を相互に持ち合っているケースが広く見られますが、このような「信託銀行を除く上場企業の2社が相互に株式を保有している状態」を株式持ち合いといいます。 �


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 今回は安定株主および株式持ち合いという「日本的」と言われる要因が現状どうなっているのか、そしてそれらの要因が企業の行動にどのような影響を及ぼしているのかを見ていくことにしましょう。

 2. 安定株主と株式持ち合いの現状

 ニッセイ基礎研究所の調査によると、1987年から1993年までは金額ベースで約45%、単位数ベースで42%程度がいわゆる安定株主が保有している比率であり、持ち合い比率は18%(金額ベース)15%(単位数ベース)に上っていました。 �

 しかし1990年代中ごろから安定保有比率および持ち合い比率は低下していきます。たとえば安定保有比率は97年には40.46%(金額ベース)、2000年には33%にまで低下しています。持ち合い比率も同じような傾向を見せており、97年は約15%、2000年には約10%にまで低下しています(いずれも金額ベース)。 �

 株式の持合は、銀行(事業会社)が事業会社(銀行)の株式を保有する、銀行が銀行の株式を保有する、事業会社が事業会社の株式を保有するという、おおきく4パターンがあります。2000年の株式持合いの構成比率を見ると、銀行が事業会社の株式を保有する比率は約5%、銀行が銀行の株式を保有する比率は0.2%、事業会社が銀行の株式を保有する比率は1.83%、事業会社が事業会社の株式を保有する比率が約2%になっています。 �

 銀行が事業会社の株式を持つ比率は基本的には5%から大きく乖離はしません。というのは金融機関による企業支配を避けるために、独占禁止法によって金融機関が企業の総株式数の原則5%を超えて株式を持つことを禁止しているからです。ただしいくつかの例外規定がありますから、96年には銀行が保有する事業会社株式の比率は7%を超えていました。それが2000年には約5%まで低下していますから、持ち合いの解消が進んでいることがわかります。 �

 事業会社が保有する銀行の株式の比率をみると、持ち合い解消の傾向は顕著です。87年には約7%程度ありましたが、90年代中ごろには5%程度に低下、さらには2000年には1.83%にまで減少しています。

 3. 安定株主の存在および株式持ち合いの効果


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 これまで見てきたように、最近、安定株主の存在、そして株式の持ち合いは崩れつつありますが、日本において株式持ち合いという慣行はかなり長く続いていたのも事実です。長く続いてきたということは、そこにはなんらかの何らかの経済的な合理的な理由が潜んでいるはずです。なぜ安定株主が長く存在しているのでしょうか。なぜ株式の持ち合いが長く行われてきたのでしょうか。 �

 第1は経営権(もしくは経営)の安定です。突き詰めると企業の支配権は株式の保有で決定されます。現在の経営陣を支持する安定株主が過半数に近い株式を保有していること、及び株式持合いが行われていることによって、市場で流通する株式数が少なくなるので、買収に必要となる株式数を取得することは非常に困難になります。すると株式市場(資本市場)からの強いプレッシャーから企業の経営者は開放されることになりますし、自分の経営者としての地位も安定します。特に現経営陣を退任に追い込むことの多い敵対的買収を行うことは難しい状況です。また、仮に株主の多くは短期的なリターンを求める人が多いという前提が成り立つのであれば、そのような近視眼的株主からの圧力を低下させることができるので、経営の 安定化・長期的視野に立った経営を行うことが可能になります。 �

 第2に、特に株式持ち合いに該当することですが、株式を持ち合っている企業同士が長期的・継続的な取引関係を促進するという効果が考えられます。お互いに持ち合っている株式が「担保」としての性格を持つことで、潜在的に企業間の信頼関係を裏切るような行為が抑制されることになります。さらに企業間の長期的な取引を促進することで相互の情報共有が進み、それが効率的な経営に結びつくとも考えられます。「口約束」にとどめるのではなく、資本の面でお互いにコミットメント関係を形成することによって、口約束が本当に相互拘束的で実効性のある約束になりうるのです。株式持ち合いの発生が外資の導入に対抗するための手段であることは先にも触れたことですが、このような関係を維持するための機能を持っていた ということが持ち合い現象を継続させる一つの原因となったと考えられます。


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 このような合理性はあるものの、財務論の観点から捉えるのであれば、いくつかのマイナス点もあるようです。第1に、株式市場のはたす最も重要な機能の一つである「価格形成」が機能しないことが考えられます。安定株主は投資の魅力度にしたがって投資を行う主体ではないため、リスクとリターンに従って株価が形成されない可能性が生じます。安定株主の存在によって市場に流通する株式数が減少するため、企業の収益力以上に株式が評価される場合もあります。また企業の決算対策として、安定株主が決算期末に株式を大量に売却することもしばしば行われますから、当該株式の投資魅力度に対して相対的に過剰に株価が下落する危険性もあります。このように安定株主が存在することによって、株式を保有することによって 得られる価値を市場が適切に反映することができなくなり、市場の持つ価格形成機能に悪影響を及ぼすことになります。 �

 また安定的にある企業の株式を保有することもしくは株式持ち合いは、資産の効率的な運用につながっているかどうかが疑問視される可能性があります。企業は調達した資本である会社の株式を買っているわけです。したがって保有しているある企業の株式の価値が継続的に高くなり、資本コストを上回るのであれば、効率的な資産運用を行っていることになりますし、保有することによるコストも問題視されないでしょう。しかし保有している株式の時価評価が大きく変動する、もしくは価値が低下していき、持ち合いしている株式からのリターンが資本コストを下回るのであれば、企業の業績が持っている株式の価値によって大きく影響を受けることになりかねませんし、資本コストを下回る収益性しか達成できないのであれば企� ��は機会費用を負担していることになります。さらに持ち合い株式は売却する際には相手先の企業の了承を得ることが慣例となっていますから、すぐに売却できるわけではないという意味で資産の流動性・機動性が非常に低くなっています。価値の変動や流動性という点では持ち合い株式はリスクの高い資産になっているのです。 �


 このほかに、持ち合いによって企業間で「なれあい」の関係が形成されたり、相互に持ち合いしている場合のみ取引関係を構築することができる場合には、競争制限的な環境がつくられることになるので、効率性が低くなる恐れもあります。また安定株主の存在および株式持ち合いは企業のガバナンス構造にも大きな影響を与えます。このガバナンスに関しては回をあらためて触れることにしましょう。

 4. 株式所有構造の変化と企業行動

 最近、企業業績の低下とともに投資収益率の見直しが進み、株式の相互持ち合いが解消されています。市場での株式の売却が多くなると、買い手が増えない限り、需給の緩みによって株価が低下するという指摘もあります。このような持ち合い株の売却の受け皿として自社株買いを行うという企業も見られます。

 株式所有比率を見ても機関投資家や外国人株主の保有比率が増えていることはすでに触れました。特に機関投資家や外国人株主は、株式投資収益率を相対的に強く意識しているため、これまでの日本企業が行ってきた株主の利益を犠牲にした雇用の維持や不採算部門の維持に対しては株式を売却するなどの行動をとる可能性があります。機関投資家もしくは外人株主の増加は不採算部門からの撤退、収益性の高い事業への集中などの圧力を高めることになり、事業単位でのM&Aなどが活発化するかもしれません。実際、大手電機メーカーなどを中心に事業単位の売却(買収)が行われていたり、当該事業のマネジメントを担当している人が資金を調達して自分で買収するというMBOもしばしば耳にします。これらに付随した、いわゆる「事� ��再生ビジネス」も活発化しつつあります。株式所有構造の変化は企業行動に大きな影響を与え始めているといえるでしょう。

 参考文献

ニッセイ基礎研REPORT「株式持ち合い解消の実態−株式持ち合い状況調査2000年度版−」2001年10月



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