2012年4月28日土曜日

TDB Solution


【解説のページ】

序.与信管理とは何か

「T.与信管理準備」は、与信管理を行うに当って、最低限必要となる準備について記述しています。大きな分類としては、「1.社内与信基準作成」と「2.社内体制の準備」があります。

「1.社内与信基準作成」は、与信管理に必要となるデータとそのデータを使用して与信管理を運用していくためのロジックの準備になります。「2.社内体制の整備」は、与信管理で必要となる自社内の役割分担などの準備になります。

まず最初に、準備の前提となる考え方、「与信管理とは何か」ということについて解説します。

 「与信」とは、「商取引において取引相手に信用を供与すること」を言います。商品の販売に際して、納品時精算が完全に成されていれば、支払いがない限り商品を渡さ ないので、「与信」は発生しません。一定期間後に支払いを約束する掛売りや期日払いを証憑で約束する手形などによる場合に、「与信が発生する」ということになります。また、「与信」を「管理」するのが、「与信管理」ですので、「信用を与える間の売掛金や受取手形などの売上債権を管理する」のが「与信管理」ということになります。
従って、与信管理体制を構築する際には、「売上債権残高」が把握できる状況をつくらなければなりません。「誰に対して、いつ、いくらで販売し、いつ回収されるか」を把握しておかなければならないということです。

このように、どちらかといえば取引開始後に事後的管理が求められる側面に加えて、取引の前段階からの与信管理も必要となります。「この企業に対して販売していいのかどうか」、「いいとすればいくらまで販売してよいか(いくらまでの債権を認めるか)」ということです。前者は、「取引可否判断」、後者は「与信限度額」といった文言を使って表現されるのが一般的です。
「取引可否判断」及び「与信限度額」は、与信管理を行う上では不可欠な要素と言ってもいいのですが、それを行うためには、「各取引先の信用度を評価する」必要が出てきます。どの程度安全なのか(あるいは、危険なのか)といったことを評価し、その上で取引可否を判断し、与信限度額を設定するという手順になります。
以下の図をご覧ください。


 この図では、一般的な与信管理の基本的な流れを示しています。
まずは、「取引先の情報を収集」します。取引先の情報には、社名・住所・資本金・従業員数・業績推移などの属性情報やその企業に対する風評、更には財務情報なども含みます。そういった情報に各種分析を加えて、その取引先の「信用度を評価」します。信用度については、自社で評価枠組みを構築する方法や信用調査会社などの外部機関情報を利用する方法もあります。
その次に、その取引先について、どこまでの債権金額を許容するかという「信用枠の設定」を行います。この信用度と信用枠を活用して、「取引条件の設定」を行います。これにより、取引がスタートすることになりますが、取引開始後は、回収の状況など自社との取引状況を把握すると共に継続的に情報収集を実施します。不幸にして、信用度が著しく低下している場合には何らかの対策が必要になります(「緊急対応」)。
この「取引先の情報収集」→「信用度の評価」→「信用枠の設定」→「取引条件設定」→「情報収集・取引状況把握」(場合によっては→「緊急対応」)の流れが与信管理の基本の流れになります。
すべての取引先に対して、このサイクルを定期的に(場合によっては随時)回していくのが与信管理の基本ですが、現実的には様々な状況を加味して、そのチェックの度合いや回数などについて強弱を付けた管理をします。理由は以下です。

    ・ 信用度や取引規模、取引形態・条件などによって、管理の程度や内容などが異なること
    ・ 全取引先に対して入念なチェックを行うことは、コストや時間の面でムダが生じる可能性があること

与信管理体制の構築に際しては、倒産時のインパクトや業務負荷などさまざまな事情を考慮した上でムダなく管理していくための仕組みを構築します。

1. 社内与信基準作成

(1)取引先評価方法の選定

 社内与信基準を作成する際には、まずは「(1)取引先評価方法の選定」を行います。具体的には取引先を評価するための情報の種類を定め、評価方法を選定するということになります。
 情報には様々な種類がありますので、各情報の内容について、簡単に解説します。


為替予測為替どこの通貨の為替

<情報の種類>
< 内部情報>
@ ネット検索
最近では、自社情報の発信の場として、ホームページを持つ企業が非常に増えてきています。上場企業などの大半は、ホームページから決算情報などを入手することが出来るようになって来ました。また、取扱商品の案内なども充実した企業が増えてきています。取引を開始するに当っては、こういった自主的に公開している情報はまず入手するべき情報です。
ホームページの有無が信用度を測る尺度になるということでは必ずしもありませんが、積極的な情報公開は姿勢として評価できるということになります。情報の内容については、自社発表ですので誇張などがないとも言い切れませんが、多くのヒントを与えてくれる有力情報と言えます。
また、信用度の低下や製品に対するクレームなどについて、各種サイトで特定の企業が攻撃されることなどもありますので、参考情報として入手しておくこともネット検索では可能です。但し、この場合は、信憑性の薄い情報や意図的に捏造された情報などもかなり含まれているケースがありますので、取扱いには慎重さが必要になります。

A 登記情報収集
企業の信用度を測る上で、登記簿からの情報は重要です。
登記簿には、商業登記と不動産登記があります。

<商業登記>
会社として事業を営む際には、法律に則り、商業登記を行います。これにより、会社の基本情報が公開されるとともに社会的な信用の基礎を得ることになります。商業登記事項としては、商号、本店(住所)、会社設立の年月日、資本の額、役員に関する事項などがあります。公開された情報とこれらの届出情報との相違やその原因などを確認すると共に内容を精査し、信用度の評価に活用します。

<不動産登記>
会社の信用度を評価する際には、資産背景が重要な確認事項となります。上場会社以外の企業にとっては、代表者の資産背景も資金調達余力を見る上での重要参考資料となります。不動産登記簿を確認することにより、保有資産の場所や面積、担保設定の状況などを正確に把握することが出来ます。

<業者登録>
登記情報とは異なりますが、誰でもが閲覧できる「公簿」として、業者登録があります。建設業など業者登録が義務付けられている業種については、所轄の官公庁で業者登録内容を閲覧することができます。業種によっては、決算書の提出も義務付けられていますので、かなり有益な情報を多項目にわたって入手することができます。

B 社内関与部門面談実施

関与部門とは、自社において直接的に関与する部門ですので、一般的には営業部門ということになります。営業部門は成約に至るまで、または成約後のアフターフォローなどで何度も取引候補先に直接足を運ぶなかで、その会社の情報を入手(または確認)できる環境にありますので、その有力情報を活用します。
ここで「面談」という表現をする意味は、営業マンのほかに与信管理を実施する役割を担った部門や管理職が存在することを想定しています。

C 業界情報収集
取引先の置かれた状況を把握するためには、関連する業界に関する情報が有効になります。現在その業界で何が起こっているかを把握することで、その取引先の先行き予測などに役立てます。同種の製品・サービスを取扱う企業が業界にはどの程度あって、その取引先がどのような位置づけにあるのかといったことを業界動向から把握します。

D 地域情報収集
中小企業のように比較的商圏が狭い場合には、近隣の同業他社の受注動向などがその取引先の業績に直結する場合などがあります。地域情報は、地域における企業同士の相関関係のような大きなものから、近隣の噂レベルの話まで有力情報が相当数入手できる可能性のある情報になります。

E 顧客訪問
顧客訪問とは、営業担当者に審査担当者が同行するなどして、取引先に審査担当者が実際に取引先を訪問することを言います。定期的な訪問を通じて、取引先の変化の状況などを把握します(但し、訪問を受ける側の取引先が快く受け入れてくれないケースも多数あるので、実施時には相応の配慮が必要となることが多いようです)。

<外部機関情報>

@ 企業概要データ入手
取引を開始するに当っては、その企業の属性データを台帳形式で保有しておく必要がでてきます。その台帳に住所や代表者名、業績推移など企業概要のデータが掲載されていれば、いろいろな局面で活用することが出来ます。顧客データベースの基本となるデータです(帝国データバンクの企業概要データについては、こちらをご参照ください)。

A 信用調査報告書入手
信用調査会社に調査を依頼することにより、信用調査会社のプロの調査員が各方面から取引先の内容を確認し、情報の裏づけを取り、所見をつけた上でまとめた信用調査報告書を入手することが出来ます。これにより、第三者の客観的な判断が入った一定品質の情報を信用度の評価などに活用できます。上記@〜Eまでの情報については、基本的に信用調査会社は押えていますので、信用調査報告書を入手することで、情報収集及び選別の時間短縮も可能となります(帝国データバンクの信用調査報告書については、こちらをご覧ください)。


起業家を見つける方法

B 財務データ収集
企業の信用度を評価する際に、決算書データは最重要に位置づけられる情報の内の一つですので、取引先に対しては決算書の提示を求めることが(本来は)望ましい対応です。上場会社であれば、提示を求めなくても、有価証券報告書やホームページなどから公開された決算書を何期分も入手することは可能です。ただし、一般の中堅・中小企業については、公開マインドが低く、売り側の立場の方が弱いケースが圧倒的に多いので、話を切り出すことさえも出来ないのが現実です。
これに関しても、信用調査会社に依頼をすれば入手できる場合がありますので、特に非公開企業の財務データ入手に際しては、信用調査会社からの入手ルートなどが有効となります(帝国データバンクの財務データベースについては、こちらをご覧ください)。

C 格付データ収集
格付機関の格付は、一般的には債券の元本償還及び利払いの確実性の程度をアルファベットなどの記号で示したものです。
格付けは、企業が債券発行時などに自社の格付を得るために格付機関に依頼を出す場合が大半ですが、多くの投資家から要請を受けて対象企業からの依頼なしに格付を行う場合があります。これを「勝手格付」と言います。
格付機関では、評価の見直し結果などを随時発表しているので、ホームページなどを通じて格付データを収集することが可能です。
格付は、上場企業クラスの企業のみが対象となっていますので、社数では99%以上を占める上場以外の企業を網羅することが出来ません。従って、データの網羅性という点で問題はありますが、自社の取引先の大半が上場企業であればその情報を有効活用することが可能です。

D 各評価情報入手(評点、倒産予測値)
信用調査会社の信用調査や企業概要データなどの多くは、企業に関する何らかの評価情報が提供されています。帝国データバンクでは、1959年より100点満点方式の「評点」を提供しています。企業の信用度を測る指標として、多くの企業で採用されています。
帝国データバンク評点(以下、「TDB評点」と略)は、9個の信用要素を加算して合計点を算出する仕組みとなっています。信用調査報告書から抜粋した評点表は以下となります。

各信用要素の評価方法は次のようになります。
    ・業歴…現在の事業の経過年数で企業運営の継続性、堅実性を評価。
    ・資本構成…企業財務の安定性を自己資本比率で評価。
    ・規模…年間売上高、従業員数などの経営規模を評価。
    ・損益…前3年間の経常損益に法人申告所得を加味して評価。
    ・資金現況…売上増減(趨勢)、収益動向、回収状況、支払能力、資金調達余力等を評価。
    ・経営者…業界経験、経営経験、経営マインドなどを評価。
    ・企業活力…人材、取引先の良否、資本系列、生産販売力などを評価。
    ・加点・減点…調査時の状況により加点・減点。
このように多くの信用要素を加味し、安定性や成長性などを考慮した総合評価であることが、TDB評点の特徴になります。

一方で、帝国データバンクでは、企業が1年以内に倒産する確率の予測値を統計モデルにより算出する「倒産予測値」も指標として提供しています。
倒産予測値は、企業の倒産リスクだけを判定する指標(数値)となりますが、確率の形式で提供されるため、一定の方法に基づいて、リスクを数値(量)で把握することが可能となります(倒産予測値を使用した10段階の格付である「予測値グレード」も同時に提供)。従って与信管理においては、倒産予測値を使用した方が精度の高い運用が可能となります(倒産予測値の詳しい内容については、こちらをご参照ください)。

<評価方法>
収集した情報に分析を加え、各種評価指標などを参考にした上で、格付の方法を選択します。一般的には、収集した情報を元に、ヒト(経営者→人柄、経営能力、経営方針、幹部・組織など)、モノ(資産→資産内容、生産能力、販売能力など)、カネ(財務内容、資金操作・銀行取引、抵抗力など)を評価して合計点を算出し、あらかじめ何段階かに設定した(5〜10段階程度が一般的)信用度を導き出します。配点の方法などについては、自社の取扱商品や業界特性などを考慮して合計点算出のロジックを構築します。
ただ、自社ですべての情報収集を行い、完全オリジナルの格付方法を構築するためには、ノウハウの蓄積などがかなり必要になりますので、TDB評点や倒産予測値のような外部機関の指標を元に自社格付を行う方法を多くの企業が採用しているようです。
外部機関の指標を元に自社格付を作成する方法には、自社の取引先の指標分布を作成し、5〜10程度の区分に分割する方法があります。倒産予測値を使用する場合は、10区分の予測値グレードをそのまま活用すれば、容易に分割できますので、その区分に応じて詳細を分析し5区分程度にまとめます。
既に自社における評価がある場合には、自社評価(5〜10区分)と外部機関指標を5つ程度にまとめた区分を元にマトリクス表を作成し、最終的に自社格付を作成する方法があります。

(2)社内与信基準作成


どのように従業員がやる気ない

「社内与信基準作成」では、取引可否判断基準などを作成します。
取引可否判断基準は、新規取引先及び既存取引先に対して、@取引をするか否かA取引をするならばどのような条件を設定するのか、ということを格付を元に判断する方法になります。
自社の全取引先の格付別の分布状況や取引金額と格付の関係などを考慮した上で基準となるラインを格付毎に設定します。
最終的には、以下のような一律基準に落とし込みます。

格付 既存取引先
取引可否判断 取引条件
1 取引可能  
2 取引条件あり 請求後2ヶ月以内の回収
3 取引条件あり 請求後1ヶ月以内の回収
4 取引条件あり 現金取引のみ
5 取引不可 -

取引条件には、自社の業種・業態や取引状況に応じて、回収期間のほかに、保全方法、決裁責任者、契約書の特約、販売価格等の各種条件が入ります。

(3)与信限度額ロジックの作成
与信限度額の設定方法については、「与信限度に正解なし」と言われる通り、各社各様でさまざまな方法があります。業種や商習慣などにより、そのロジックのつくり方は様々です。具体的には、自社属性を基準とした方法や相手属性を基準とした方法などを採用するのが一般的です。
以下は一般的な与信限度額の設定方法の例です。
□自社属性を基準とした方法
    ・ 販売目標管理法 → 自社の担当者とトップとの話し合いで取引先売上目標を回収サイトによって限度額を設定。
    ・ 段階的増枠法 → 新規取引時にやや低めの限度額を設定し、取引振りや経営内容から漸次限度を増額する方法。
    ・ 同種企業比較法 → 取引先の企業から標準企業を選定し、この企業の限度額を設定して、これと比較して個々の取引先の限度を設定する方法。
    ・ 売掛能力の一割法 → 自社の売上債権総額の10%程度を与信限度額とする方法。
    ・ ………
□相手属性を基準とした方法
    ・ 取引先仕入基準法 → 取引先の貸借対照表における仕入債務の何%かを任意で設定し、これを与信限度額として、限度額を10%から徐々に上げていく方法。
    ・ 内部留保基準法 → 取引先の自己資本の10%以内を基準として与信限度を決める方法。
    ・ 月商の一割法 → 取引先の平均月商の10%程度を与信限度額としておけば、いざという時に容易に商品が引き上げやすいという方法。
    ・ ………
このガイドラインでは、こういった一般的な手法の良さを取り入れ、リスクの度合いが考慮される方法を採用しています。
特徴としては、代表的な「自社属性を基準とした方法」と「相手属性を基準とした方法」のうちから4つのチェックロジックを使用し、更に信用度を加味した与信限度額を算出する方法となります。
4つのチェックロジックは、「希望与信額」、「財務上限基準 → 自己資本×一定割合」、「売上債権基準 → 自社売上債権×一定割合×重み付け」、「仕入債務基準 → 推定仕入債務×一定割合×重み付け」になります。一覧表示は以下です。


@ 希望与信額
A 自己資本×一定割合
B 自社売上債権×一定割合×重み付け
C 推定仕入債務×一定割合×重み付け
D @〜Cのうちの最小値を与信限度額とします。

上表の@〜Dの内容については以下となります。
@ 「希望与信額」とは、取引先との取引希望額に回収条件を加味して、ピーク時における債権残高を推定した金額になります。例えば、毎月3千万円の取引を希望し、回収サイトが2ヶ月ならば、希望与信額は6千万円になります。
A このチェックロジックは、焦付きが発生した場合に自社の財務体力で耐えうる金額をあらかじめ設定し、その金額に一定割合を乗じて、1社に対する売上債権金額を算出します。例えば、自己資本が3億円だった場合に、その10%までなら耐えうるということであれば、1社に対して許容される債権額は、3億円×10%=3千万円 ということになります。なお、この場合の割合設定については、手元余裕資金や換金可能な流動資産などの金額をみて、現実的な範囲で任意設定します。
B このチェックロジックは、自社の販売方針や標準的な回収サイトなどから、「一定割合」を設定し、「1社に対する売掛債権を全体の何%まで許容するか」をまず算出します。例えば、自社の売上債権総額が3億円だった場合に、1社に対して許容する一定割合を10%と設定したならば、3億円×10%=3千万円 ということになります。次の「重み付け」は、その取引先の信用度によって、算出された金額を増減する倍率になります。
例えば、仮に重み付けの倍率を格付に応じて、以下のように設定します。
    1格(信用度厚)   → 1.5倍
    2格(信用度やや厚) → 1.2倍
    3格(信用度普通)  → 1倍
    4格(信用度やや薄) → 0.8倍
    5格(信用度薄)   → 0.3倍
これにより、仮に取引先A社が4格であれば、上記例で算出すると、
3億円×10%×0.8倍=2千4百万円ということになります。
C このチェックロジックは、取引先の仕入能力を推定し、その能力の「一定割合」にまで自社の債権を保有しないというロジックになります。つまり、「相手先の仕入債務のシェアの何%まで許容するか」ということになります。例えば、取引先の仕入債務の推定値が5億円だった場合に、1社に対して許容する一定割合を10%と設定したならば、5億円×10%=5千万円 ということになります。次の「重み付け」は、その取引先の信用度によって、算出された金額を増減する倍率になります。
  例えば、仮に重み付けの倍率を格付に応じて、以下のように設定します。
    1格(信用度厚)   → 1.5倍
    2格(信用度やや厚) → 1.2倍
    3格(信用度普通)  → 1倍
    4格(信用度やや薄) → 0.8倍
    5格(信用度薄)   → 0.3倍
これにより、仮に取引先A社が4格であれば、上記例で算出すると、
5億円×10%×0.8倍=4千万円ということになります。
D 最後に@〜Cまでの金額を比較して、最小となる値を与信限度額とします。上記例では以下となります。
  1. 6千万円
  2. 3千万円
  3. 2千4百万円
  4. 4千万円
1〜4の最小値=2千4百万円 が与信限度額ということになります。
なお、3及び4について、「重み付け」の方法については、格付ごとの倒産発生率を使用することで、精緻な計算が可能となります。
例えば、仮に各格付の倒産発生率が以下だったケースを考えてみます。
  1格(信用度厚)   → 0.1%
  2格(信用度やや厚) → 0.5%
  3格(信用度普通)  → 1%
  4格(信用度やや薄) → 2%
  5格(信用度薄)   → 5%
この例で言えば、3格を基準とすると、5格は5倍の危険度があることになります。従って、「重み付け」としては、5分の1になります。反対に信用度の厚い1格であれば、10分の1の危険度となりますので、「重み付け」は10倍ということになります。
「重み付け」の計算式は、以下となります。
重み付け=基準となる指標の倒産発生率 ÷ 当該取引先の評価された指標の倒産発生率
このように、取引先の格付ごとの倒産発生率などを使用することで、精緻な与信限度額計算を行うことが可能となります。

※上記格付けなどの例は、あくまで解説のための事例であり、そのまま使用できるものではありません(「一定割合」は自社の状況に合わせて設定し、「重み付け」については根拠となるデータを集計・分析した上で設定する必要があります)。

2.社内体制の準備


(1)売上債権残高集計
与信管理は、信用を与える間の売掛金や受取手形などの売上債権を管理することです。新規取引の際に信用度を測り、与信限度額を設定し、契約書を締結した場合でも、その後の取引が与信限度の枠内に収まり続ける保証はありません。取引先の信用度が変化しているかもしれません。従って、取引開始後には継続的に管理を実施する必要があります。
売r上債権残高の集計は、いずれの場合でもそういった「継続管理」の基本となります。
月末の残高を翌月の10日位までに把握できるのが一般的ですが、与信限度額と債権残高をなるべく短いサイクルで比較できる環境が望ましいということになります。

(2)変動情報の入手
取引先の変動情報として、自社内で把握できるものとしては回収状況があります。信用度が著しく低下してくれば、当然ながら支払い状況にも影響してきます。売上債権残高を定期的に把握することで、信用程度が低下している疑いのある先をリストアップすることが出来ます。ちなみに、信用度が低下していなくても支払いの態度が悪い取引先などもありますので、それのみをもって信用度を測ることは出来ませんが、回収状況は確実に把握できる確かな変動情報です。
また、取引先の状況変化を把握するための営業マンからの聞き取りなども出来れば自社内で定期的に実施したいところです。
外部から収集する変動情報として、業界や地域の噂情報などは、一般的に「信用情報」と呼ばれるカテゴリーに分類されるものもあります。「支払遅延」、「手形ジャンプ要請」「給与遅配」「大口焦付き発生」などの信用不安情報は緊急事態に発生する重要情報ですので、入手できる様々なルートを確保しておく必要があります。
与信管理を行う上では、変動情報は非常に重要ですので、社内外の様々な方面にアンテナを伸ばし情報収集できる体制を整えておくことが肝要です。

(3)業務体制の整備
与信管理は、「取引先の情報収集」→「信用度の評価」→「信用枠の設定」→「取引条件設定」→「情報収集・取引状況把握」(場合によっては→「緊急対応」)の流れが基本になります。この流れをスムーズに行うための業務体制の整備が必要になります。
企業の規模等により、用意するべき仕組みなどは大きく異なりますが、効率的に運用するための規定や外部データ、データの運用ツールなどは、ほぼ標準的に必要となります。
営業部門と審査部門等の役割分担や責任の範囲を明らかにし、自社の実情に合った運用に耐えうる仕組みを構築することが必要となります。
スキルスタンダードでは、「与信管理」として「新規取引」「継続取引」について、基本的な流れを規定していますので、これを参考に自社にあった体制を構築していきます。



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1 コメント:

師子乃 さんのコメント...

初めまして。

与信管理について、勉強させていただきます!

よろしくお願いいたします!

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